孤独の、はやかです。
最初はどうかと思っていた。
名古屋に来たばかりで無知で愚かな私は思ってしまった。
あぁ、また二郎系か。
バカみたいに食べきれない程のもやしを乗せて取り敢えずインパクトを出して注目を浴びようって魂胆か。
この出会いが私の名古屋生活を大きく変えることになるとは思いもしなかった。
名古屋は圧倒的にラーメン屋が少ない...
だがしかし私も胃袋が今日のお昼はラーメンだと頑として動じない。
取り敢えず「ラーメン 近く」で検索をかけてみた。
あった。
口コミなどを確認する余裕は今の胃袋にはない。失敗覚悟で行ってみるとするか。
見えたのは赤と黄色の少し下品な看板。
しかも何だ、この3割うまい餃子店のイメージキャラクターそっくりのチャイナガールキャラクターは。
仕方がない、物は試しだ。
ラーメンでは食わず嫌いは許されない。スープの中には何が隠されているかはどんなプロにも分からないのだ。
分かるのは麺の太さ、そして家系か、家系以外か。
お邪魔します。
カウンター席に着くと威勢のいい主人が麺を豪快に湯切りしながらオーダーを聞いてきた。
メニューには...
ラーメン、大盛りラーメン、特製ラーメン(チャーシュー麺)、特製大盛りラーメン、と書かれていた。
...え?
要するに「ラーメン」の一種類しかここには無いのか...?
醤油か塩か豚骨かも分からない「ラーメン」を取り敢えずオーダーした。
「ラーメン...で」
たった600円というのがまた更に不安にさせるな...
これはこの後食べ直しか?
店内はカウンター席のみだ。
以外にも清潔感は凄くある。手を洗うスペースまで小さい割にはあるようだ。
駐車場もあるのか...
なるほど、抑えるところは押えているようだ。
ん...?
おいおい、隣の客のは特製大盛りラーメンってやつか?
凄い....もやしだ。
これじゃあ麺の太さもスープの色も見えないじゃないか。
ちょっ....!
ちょっと待てよ!
自分がオーダーしたのはただの「ラーメン」だ! もやしの量は多少隣よりかは少ないがそれでも一般的な「ラーメン」の姿ではないっ...!
主人は「ラーメンどうぞ」と言って自分の前にそれを置いた。
間違いない、これが「ラーメン」だ。
味も知らないラーメン屋で二郎系に遭遇してしまったのはどう考えてもついていない。
仕方がなくもやしを掻き分けレンゲでスープをすくってみた。
この色は醤油豚骨か?
取り敢えず飲んでみよう。
...ほっ!!
これはっ...!!??
何も理解が追いつかないままレンゲを口へ二度三度と運んでいた。
何だこれは!?
何味とも言いようがない。サッパリともこってりとも言いようがない。この絶妙なバランスが食欲を煽った。
そして麺だ!
なるほど、太麺だ。
くぅーー!!
うまい!
このスープと麺が最高に合っている!
更にこのもやしだ。これまた最高の仕事をしている。
味はサッパリ系とも言えるが油もしっかり入っているのでガッツリ食べたい時にも胃袋を満たしてくれるだろう。
そしてこの山盛りのもやしがこれでもかというボリューム感を与えている。油がしっかり入っているスープと相性抜群だ。
そしてバカにしてはいけない、チャーシューだ。チャーシューは今まででないくらいの薄く切られた物だったが量はかなり入っていた。
薄いチャーシュー、なかなかの強敵だ。
これは薄いからいいのだ。この薄いチャーシューが今までの「うまいチャーシュー」の常識を覆していく。少しサッパリしたチャーシューはもやしとスープで食べるもよし、麺と絡ませて食べるもよしの、万能品だ。
うまい。箸が止まらない。
文句の言いようが無い、緻密に計算されて出来上がったであろうこのなんとも言えない絶妙なバランスの一品。
この麺とスープともやしが一緒に口に運ばれた時には二度と引き返すことが出来ない。
もやしラーメンの虜になっている間にいつの間にか店内は満席状態になっていた。
なるほど、この人達も全員もやしラーメンの中毒症状にかかった被害者と言うことか。
ふとここでカウンターテーブルの上にある物が目についた。
スタミナ辛子...?
いや、これはきっと初回で手をつけるものでは無いな。
次のお楽しみという事だ。
最後の一本のもやしを食べた。
ふぅ...これは完敗だ。
まさか18年間もこのラーメンを無視していたとは。
お会計をした後もまた威勢のいい主人が「ありがとうございましたー!」と言い見送ってくれた。
あぁー、うまかった。
胃袋以外にも色々満された気分だ。
明日にでもまた食べれてしまう。家系では流石にこうはならないだろう。
早速中毒症状が出ているのが分かる。
これから自分はこのラーメンにひれ伏せて生きていくのだろう。
次は色々検索してから攻略していこう。
きっとこれは、奥が深い。