代償。はやかです。
「やべぇ...光熱費エグいわ...」
「え、見して。...ははっ!んな6月からエアコン付けっぱなしだったらそうもなるわな!」
他人の家でゴロゴロと漫画を読みながら呑気に高笑いしていられるのも今のうちだぞ....
どうしたものか...これからもっと暑くなるというのにエアコンをつけないなんて自殺行為だ。ただな...俺みたいな貧乏学生に選択肢なんて最初からないんだよな。
「しゃーね、エアコン切るわ。」
「はぁ?!お前みたいな暑がりが今更エアコン切れるわけねぇだろ!」
「しょうがねぇじゃん。金無いんだからよ。だからお前はもうさっさと帰れよ。」
「嫌だよ!帰ったら暑いじゃん。」
「ここも暑くなるんだよ、ばーか。」
バカ同士の会話が続く中、ふとそいつが言った。
「そうだ!うっわ忘れてたわ...!1ヶ月だけでいいならうまい話があるんだよ!」
そいつが言うには、知り合いの大家さんの部屋が事故物件になってしまい、家賃を大幅に安くしなければ客が決まらないと悩んでいるらしい。そこで、1人でもその物件に住めばそれ以降の客には事情も話さず元の値段で売れるという事で、1ヶ月だけ家賃も水道光熱費もただで住んでくれる人を探しているという話だった。
事故物件に住むバイトがあるという都市伝説は聞いた事があったが流石にお金までは貰えないようだ。
しかし!水道光熱費までただ!金のない学生からしたらこんなに美味しい話はない。特に暑がりでエアコン無しでは生きていけないような俺からすれば、夏の1ヶ月間エアコンかけ放題は...でかい。
「しかもよぉ、そのマンション先週俺らが行ったらファミレスの真ん前なんだよ。駅から徒歩7分!」
「めちゃくちゃ学校の近くじゃんかよ!....おい、でも何でお前は住もうとしなかったんだ。」
「いやさ...前住んでた人ちょっと気味悪い死に方したって聞いてさ...び...びびった...?みたいな...?」
「はははっ!なんだよその話し方、気持ちわりぃ!お前が1番気味悪いわ!」
「とにかく...!他殺じゃなくて自殺でも少し気持ち悪い事件だったからそのままだと客がつかないみたいで...」
「だから俺が1ヶ月住めばいいんだろ。有難くその部屋使わせてもらうわ。その気持ち悪い死に方っていうのが気になるけどな。」
「やっぱお前は住むよなぁ...ああ、それがさ...その人包丁で自分の腹刺す前に...左手の指全部切り落としてから死んだみたいでさ...もっと気持ち悪いのがなぜかその指が1本も見つかってないんだよ...」
予想以上にその話は気味が悪いものだったが、結局俺はそこに1ヶ月間だけ住むことにした。
「くぅぅぅー!結局最高じゃんかよ!」
最初は少し心配だったがマンション自体もすごく綺麗で明るいし至って普通のマンションだった。なんなら自分が住んでいる部屋よりも綺麗でトイレと風呂も別々で広かった。
すぐ近くにはコンビニもあり、少し歩いて道路沿いに出ればファミレスやら薬局やら色々と便利な店が並んでいた。気がかりな事と言えば近くの神社の雑木林からセミの鳴き声がうるさいほど聞こえるくらいだ。
それから5日間ぐらい経った。全く不自由なく使わせてもらっているが、気になる事は実は少しあった。住み始めて最初の日から、夕方ぐらいに家に居ると決まって風呂場の方から変な物音がした。
「ギ...ギギ....ギ..」
今日もだ...
でも1時間ぐらいで大体収まるからそこまで気にする事じゃないよな。事故物件だからと意識するから気味悪く感じるだけで住んでるのは俺だけじゃないし、物音ぐらいは多少あって当然だ。
それから1週間が経った。
「ギギ...ギッ..ギギギ...ギ..」
なんだよ...こんな時間まで続くのは初めてだ...思い込みかもしれないが音も最初より大きくはっきり聞こえるようになってきた。
友人が最初に言っていた事を思い出し、少し不安になったがまた冷静さを取り戻した。
「なんかネズミとかでも住んでるのかな...いやそれも怖いだろ...」
俺は独り言に1人で返し、丸めた雑誌を手に持って音の鳴る風呂場の方へ向かった。
「ガチャ」
ドアを開けると脱衣場があり、横を見ると浴室に入る折り戸がある。
「ギ...ギギギ..」
「絶対ここだな」
耳を澄まさなくとも音は明らかに脱衣場の真上から聞こえた。
天井には開け外しできそうな四角い蓋のようなものがついていた。これを開ければ原因が分かるかもしれない。
浴槽で使っているイスを出し、そこに立つ。
よし、これなら手が届く。俺は恐る恐るその蓋に手を伸ばした。
「ゴンッ!」
なかなか開かない...インターネットで開け方調べてみるか?
しばらく開かずに苦戦していると
「ガチッ」
よくやく開いた。隙間から少し覗いてみるが中は真っ暗で何も見えない。もう少し蓋をずらしてみよう。
「コトッ」
「うああっ!!」
その時、茶色いものが肩に当たり床に落ち、音を立てた。
「ビックリした...なんだよこれ...」
落ちてきた木の枝のような茶色い物をイスから降りてしゃがんで見てみる。
マジマジと見ていると、ようやく何かが見えてきた。
「ひっ...! これ...爪がついてる...?!もしかしてっ...?!」
もしかしなくとも見れば見るほどそれは「人の指」だった。
「何でこんなのリフォームの時に気づかなかったんだよ...!おかしいだろ?!」
友人の悪戯とは思えないほどその指はリアルで、ミイラ化した様なものだった。何より少し、いや、意識すればするほどキツい臭いがしてきた。
指は8cm程あり、よく見るとそれには数本の長い髪の毛が絡みついていた。
続