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五十嵐早香の幻影記録〜旧伊勢神トンネル〜

暗い暗い道が続く。そこは街灯一つ無い雑木林。
車のヘッドライトが道を照らすが少し先しか見えていない。突然何かが飛び出してきてもおかしくない。
それはまるでホラー映画のワンシーンだった。

ひたすらに車を走らせると、それは突然現れた。


石が積まれて作られたようなトンネル。地面は真っ平らなコンクリートではなく、砂利道のようだ。
普段見るようなトンネルではなく、もう少し原始的に作られたとても古くて小さいトンネルだった。
外壁には草が生え、中を照らすライトは消えていた。

車のエンジンをかけたまま端に止め、歩いてトンネルの入口に向かった。
石を踏みしめる音だけが響く。車のヘッドライトに照らされたトンネルは、入口付近だけが照らされ、奥には暗がりが待っていた。
それは好奇心をくすぐると同時に、まるで見たいのなら入ってこいと手招きされているようで薄気味悪かった。



懐中電灯の灯りをつけ、一歩足を踏み入れる。すると飲み込まれたかのように、自分のたてた足音の反響に包まれた。

また一歩、また一歩と中へ進む。
ジャリジャリと小石を踏みしめる音と、ぼんわりとした空気の音が耳を塞ぐ。
車のライトから遠ざかっていき懐中電灯のか細い光を頼りに前へ進む。
中を見回すと、所々から壁を伝って水が滴っている。ひんやりした空気が頬をさすり、ぞくぞくと寒気がする。
トンネルの外と中はまるで別世界のように温度が違う。

ぼうっと外が見えてくるが、決して安堵する光ではなかった。



外へ出るとぼんわり聞こえていた音はなくなった。そして何故かそこには一本の街灯が不気味にトンネルを照らしていた。

入ってきた方の出入口とは違い、苔や草で壁が覆われており、一本の街灯で緑色に染められていた。付近に取り付けられた標識までもが深緑に汚れていた。
入口とは違う。格段に気味が悪い。
写真を撮ると、緑色のフィルターがかかっているようで、映画に出てくるそのものだった。
正直ここにはあまり長居したくなかった。影がかった雑木林の高い壁が逃げ道を塞いでいるようで不安を仰ぐ。
なぜこの場所に一本だけ街灯があるのだろうか。もはや演出のような雰囲気で、そこは浮世離れしていた。

車へ引き返すためには元来たようにトンネルの中を歩いて行かなければならない。
写真や動画を撮り、早々に中へと歩いていく。
この場所に留まるぐらいなら、トンネルの中へ歩く方がよっぽど良かったからだ。

早く車へ戻ろう。その一心で歩いていると、ふと怖くなり、後ろを振り向く。

そこには緑色に照らされた光が、ぼんやり不気味に取り残されていた。