孤独な、はやかです。第4話
今、絶対にラーメンが食べたい。
そんな時が誰にしもあるだろう。
そしてまさに今の私である。
あー...今日は絶対にラーメンなんだ。そう私の腹も鳴いている。
携帯に登録してある「行きたいラーメン店」のリストを眺めていると、ふとある店が目に留まった。
そこは以前何度か行こうと試みたが、休業だったりと何かと不運でまだ行けてなかった店だ。
よし、今日はやっているはず。
私はすぐにそこへと向かった。
ラーメン屋の最寄り駅を出ると、辺りはビルに囲まれていた。道行く人は皆スーツを着てそそくさと歩いていく。
これがオフィス街か。
この辺りはラーメン屋が多いので初めてではなかった。
他にも気になる店があるので、あと数回はサラリーマンに混ざって食べることとなるだろう。
学生にもまれながら食べるのは慣れたが、サラリーマンに混ざるのはどうも苦手だ。
彼らは私と違って時間が無いからだ。後から来たサラリーマンが麺を飲むかのようにすすり、私より先に店を出るのを見るとなんだか心苦しくなる。
そうこう考えているともう目的の店に着いてしまった。さすが駅近。
ここの強みの一つは立地だ。
そしてこの看板が目立つな。
上を見ると緑の看板に赤い文字で店名が書いてある。
腹が限界までに鳴り始めたので、早速店へ入った。
店に入るとすぐ横には券売機がある。
新しい店の券売機の前に立つのはやはりドキドキするな。
上から見ていくとまず最初に目に留まったのがセットだ。それはラーメンとライスのセットだった。やはり家系ラーメンを食べるのにライスはマストだろう。
ただ...
「1000円...か...」
うーん...昼ごはんのラーメンにしては少し高い。
流石は名古屋の丸の内だ。
そして普通のラーメンが780円。
ライス小が100円、ライスが150円。
全部のせラーメンが980円。
券売機に付いた写真を見る限りセットのラーメンは全部のせだろう。
まぁいい、大人しく1000円のセットを食べてみるとするか。
1000円札を券売機に入れボタンを押すと券だけが出てきた。
お釣りが出てこないのがかなり不思議だ。
食券を持ち、隅のカウンター席に座る。
混んでいるのが嫌で15時に来たのが正解だったようだ。普段は並んでいると口コミがあった店だが、この時間は自分含め2人しか居なかった。
「えと...麺硬め、それ以外普通で。」
「はい...」
新しい店はこれが無難だろう。
しかし今日はサラリーマンが居なくて落ち着くな。
辺りを見回してみると壁は全て緑色だった。随分奇抜な店内だ。
と言いたいところだが、壁なんかよりも気になっている事がある。
なんなら券売機の前に立っていた時から気づいていたが、たまたまだと思っていた。
だがどうもたまたまではないようだ。
ずっとイタリアかフランスかのオペラのような曲がかかっているのだ。
そう、まるでイタリアンレストランで流れるようなゆったりとしたお洒落な異国の曲。
なぜだ!!!
ラーメン屋でなぜずっとこんな感じの曲が流れているんだ!!
もっと一昔前の曲とかラジオでいいんだ!!
とてもとても、気になって仕方がない。
なんだ、緑と赤の看板はそういう事なのか。
某安くて美味しいイタリアンのファミレスが経営してるのか?
曲は本当にそのファミレスでかかるような曲だ。
ああ、有線でたまたまこういう曲が流れているのだと思ったが、この様子だとわざとだろう。
この割と若くて静かな店主のチョイスだろうか。
この後ラーメンに集中できるか心配だ。
ゴトッ
「お待たせしました...」
重みのある音と共に若い店主が呟くように言った。
おお...待ちに待った家系だ。
少しクセのある豚骨の香りが唾液を分泌させる。
「いただきます」
ではでは、まずはスープから。
レンゲでスープだけを飲んでみる。
おおおお!!きたきたきたぁー!
醤油豚骨のこってりとしてとろみのある濃厚なスープが喉を通る。
まさに家系。
次に箸で麺を掴んで持ち上げた。
ん、不調か。一度下ろして、今度は底深く箸を潜らせもう一度麺を上げてみる。
おや。
おやおや。
麺が...
「...短いぞ。」
確かに家系ラーメンの麺は予め切られているので、麺は少し短めな店が多いのだ。
ただこれは...ここまで短いのは初めてだ。
全長20センチぐらいだろうか。
箸が折り返し地点になっているので、持ち上げたら10センチ程度にしかならない。
何度下ろして別の場所から持ち上げてみても短い。
この店の特徴だろうか。
よく残す少食の友人から残りを貰うと、麺類は大抵すすれないほど短くなっていたのを思い出す。
まぁいい、取り敢えず食べてみよう。
ズッとひとすすりで食べる。
うん、太麺の麺がしっかりスープと絡んで美味い。
よし、ここでいつものやつをしよう。
ご飯に思いっきり手元の胡椒を振り、ゴマも...
ん、ここはゴマが無いのか...
それは残念だ。
代わりになぜかふりかけが置いてある。
君は呼んでないんだよなー。
まぁいい、そして海苔を手で半分に切りサッとスープに通してご飯の上に置き、グッと箸でご飯を海苔の上から掴み口に頬張る。
くぅー!!いいね。
ただ海苔が家系にしては硬くないな。スープに通すとすぐにふやけてしまった。
まぁそんな時もあるさ。
ズッとすすりながらほうれん草やチャーシューを食べる。
全部のせなだけあって、やや分厚めのチャーシューも何枚か乗っていて気兼ねなくチャーシューを食べれる。海苔は5枚といったところか。ほうれん草も惜しみない。
よし、ではそろそろこちらを失礼しよう。
味付け卵に箸を食い込ませる。
パカッと開くと...
うーんなるほど。
これは好き嫌い個人差が出るかもしれない。
黄身はトロッとしたタイプではなくやや固めだった。
私はやはりトロッと卵が好物なので少しだけ残念だ。
まぁまぁ、ただ食べてしまえば美味いものだ。
ラーメンに卵はすこぶる相性が良い。
ズッと食べ始めてしばらく経ったが、自分の後に入ってきたサラリーマンがラーメンを食べ終え店を出ていった。
やはり早いな...
こちらまで焦ってしまう。
だが私もいよいよ終盤。
最後の方に残った更に短い麺を箸ですくい食べていく。
底の見えないスープにおもむろに箸を沈め、掴んでは短い麺を口に運ぶが、どんどんと箸に捕まる麺は3本、2本、そして1本と少なくなっていった。
とうとう何度箸を沈めても麺が捕れなくなった。
終わりということか。
最後に丼から直接スープを一口飲んだ。
やはり家系は濃いめがいい。
「ごちそうさまでしたー」
丼をカウンターの上に乗せると店主が
「ありがとうございました...」
と小さめの声で言った。
外に出るともう既に夕日でオレンジがかっていた。
終始イタリアンレストランの曲が流れていて不思議な店だったが、このラーメンが今日も明日もサラリーマン達の英気となるのか。
今日も一日、お疲れ様でした。
また今度、この辺のラーメン屋で会いましょう。
そんな時が誰にしもあるだろう。
そしてまさに今の私である。
あー...今日は絶対にラーメンなんだ。そう私の腹も鳴いている。
携帯に登録してある「行きたいラーメン店」のリストを眺めていると、ふとある店が目に留まった。
そこは以前何度か行こうと試みたが、休業だったりと何かと不運でまだ行けてなかった店だ。
よし、今日はやっているはず。
私はすぐにそこへと向かった。
ラーメン屋の最寄り駅を出ると、辺りはビルに囲まれていた。道行く人は皆スーツを着てそそくさと歩いていく。
これがオフィス街か。
この辺りはラーメン屋が多いので初めてではなかった。
他にも気になる店があるので、あと数回はサラリーマンに混ざって食べることとなるだろう。
学生にもまれながら食べるのは慣れたが、サラリーマンに混ざるのはどうも苦手だ。
彼らは私と違って時間が無いからだ。後から来たサラリーマンが麺を飲むかのようにすすり、私より先に店を出るのを見るとなんだか心苦しくなる。
そうこう考えているともう目的の店に着いてしまった。さすが駅近。
ここの強みの一つは立地だ。
そしてこの看板が目立つな。
上を見ると緑の看板に赤い文字で店名が書いてある。
腹が限界までに鳴り始めたので、早速店へ入った。
店に入るとすぐ横には券売機がある。
新しい店の券売機の前に立つのはやはりドキドキするな。
上から見ていくとまず最初に目に留まったのがセットだ。それはラーメンとライスのセットだった。やはり家系ラーメンを食べるのにライスはマストだろう。
ただ...
「1000円...か...」
うーん...昼ごはんのラーメンにしては少し高い。
流石は名古屋の丸の内だ。
そして普通のラーメンが780円。
ライス小が100円、ライスが150円。
全部のせラーメンが980円。
券売機に付いた写真を見る限りセットのラーメンは全部のせだろう。
まぁいい、大人しく1000円のセットを食べてみるとするか。
1000円札を券売機に入れボタンを押すと券だけが出てきた。
お釣りが出てこないのがかなり不思議だ。
食券を持ち、隅のカウンター席に座る。
混んでいるのが嫌で15時に来たのが正解だったようだ。普段は並んでいると口コミがあった店だが、この時間は自分含め2人しか居なかった。
「えと...麺硬め、それ以外普通で。」
「はい...」
新しい店はこれが無難だろう。
しかし今日はサラリーマンが居なくて落ち着くな。
辺りを見回してみると壁は全て緑色だった。随分奇抜な店内だ。
と言いたいところだが、壁なんかよりも気になっている事がある。
なんなら券売機の前に立っていた時から気づいていたが、たまたまだと思っていた。
だがどうもたまたまではないようだ。
ずっとイタリアかフランスかのオペラのような曲がかかっているのだ。
そう、まるでイタリアンレストランで流れるようなゆったりとしたお洒落な異国の曲。
なぜだ!!!
ラーメン屋でなぜずっとこんな感じの曲が流れているんだ!!
もっと一昔前の曲とかラジオでいいんだ!!
とてもとても、気になって仕方がない。
なんだ、緑と赤の看板はそういう事なのか。
某安くて美味しいイタリアンのファミレスが経営してるのか?
曲は本当にそのファミレスでかかるような曲だ。
ああ、有線でたまたまこういう曲が流れているのだと思ったが、この様子だとわざとだろう。
この割と若くて静かな店主のチョイスだろうか。
この後ラーメンに集中できるか心配だ。
ゴトッ
「お待たせしました...」
重みのある音と共に若い店主が呟くように言った。
おお...待ちに待った家系だ。
少しクセのある豚骨の香りが唾液を分泌させる。
「いただきます」
ではでは、まずはスープから。
レンゲでスープだけを飲んでみる。
おおおお!!きたきたきたぁー!
醤油豚骨のこってりとしてとろみのある濃厚なスープが喉を通る。
まさに家系。
次に箸で麺を掴んで持ち上げた。
ん、不調か。一度下ろして、今度は底深く箸を潜らせもう一度麺を上げてみる。
おや。
おやおや。
麺が...
「...短いぞ。」
確かに家系ラーメンの麺は予め切られているので、麺は少し短めな店が多いのだ。
ただこれは...ここまで短いのは初めてだ。
全長20センチぐらいだろうか。
箸が折り返し地点になっているので、持ち上げたら10センチ程度にしかならない。
何度下ろして別の場所から持ち上げてみても短い。
この店の特徴だろうか。
よく残す少食の友人から残りを貰うと、麺類は大抵すすれないほど短くなっていたのを思い出す。
まぁいい、取り敢えず食べてみよう。
ズッとひとすすりで食べる。
うん、太麺の麺がしっかりスープと絡んで美味い。
よし、ここでいつものやつをしよう。
ご飯に思いっきり手元の胡椒を振り、ゴマも...
ん、ここはゴマが無いのか...
それは残念だ。
代わりになぜかふりかけが置いてある。
君は呼んでないんだよなー。
まぁいい、そして海苔を手で半分に切りサッとスープに通してご飯の上に置き、グッと箸でご飯を海苔の上から掴み口に頬張る。
くぅー!!いいね。
ただ海苔が家系にしては硬くないな。スープに通すとすぐにふやけてしまった。
まぁそんな時もあるさ。
ズッとすすりながらほうれん草やチャーシューを食べる。
全部のせなだけあって、やや分厚めのチャーシューも何枚か乗っていて気兼ねなくチャーシューを食べれる。海苔は5枚といったところか。ほうれん草も惜しみない。
よし、ではそろそろこちらを失礼しよう。
味付け卵に箸を食い込ませる。
パカッと開くと...
うーんなるほど。
これは好き嫌い個人差が出るかもしれない。
黄身はトロッとしたタイプではなくやや固めだった。
私はやはりトロッと卵が好物なので少しだけ残念だ。
まぁまぁ、ただ食べてしまえば美味いものだ。
ラーメンに卵はすこぶる相性が良い。
ズッと食べ始めてしばらく経ったが、自分の後に入ってきたサラリーマンがラーメンを食べ終え店を出ていった。
やはり早いな...
こちらまで焦ってしまう。
だが私もいよいよ終盤。
最後の方に残った更に短い麺を箸ですくい食べていく。
底の見えないスープにおもむろに箸を沈め、掴んでは短い麺を口に運ぶが、どんどんと箸に捕まる麺は3本、2本、そして1本と少なくなっていった。
とうとう何度箸を沈めても麺が捕れなくなった。
終わりということか。
最後に丼から直接スープを一口飲んだ。
やはり家系は濃いめがいい。
「ごちそうさまでしたー」
丼をカウンターの上に乗せると店主が
「ありがとうございました...」
と小さめの声で言った。
外に出るともう既に夕日でオレンジがかっていた。
終始イタリアンレストランの曲が流れていて不思議な店だったが、このラーメンが今日も明日もサラリーマン達の英気となるのか。
今日も一日、お疲れ様でした。
また今度、この辺のラーメン屋で会いましょう。